“琥珀色の珈琲”を求めて全国の珈琲好きが一度は訪れたいと思う場所が、熊本市役所すぐ近くの銀杏通り沿いにあります。
熊本市内の繁華街にあたりますが、昼間は静かなもの。赤い矢印看板が目印の年季の入ったお店が見えたら、そこが『珈琲アロー』です。
昭和39年(1964年)の11月に開店ということですが、その年は東京オリンピックが開催された年。マスターはバーテンダー、菓子職人を経て、
「わざわざここまでコーヒーを飲みに来てくれるお客さんだけを相手したかったから」
ここに店を開いたそうです。
古き良き時代を想わせるバーのような雰囲気の店内。最近はメディアで取り上げられることも多く、全国から、
「あの珈琲を飲みに来ました」
というお客さんが毎日のように来店するそうですが、
「もう学生時代から」
というような数十年来の常連さんが中心。
古くは、
「珈琲は好きではない」
としていた作家・三島由紀夫も一度訪れ、その美味しさにその後も足繁く通ったという、熊本を代表する歴史ある名店です。
珈琲アローは珈琲・500円、その一品のみ。他にメニューはありません。アイスという選択肢もありません。
メニューはこれ一つなので、店に入って席に着くだけ。注文しなくても大丈夫なのです(笑)。最初に水を出されて、その後に珈琲が提供されます。
集中しながらドリップされること約15分。丹念に淹れられた珈琲を見た瞬間、衝撃を受けます。
「本当に琥珀色だ!」
かなり薄い茶色で透き通ってカップの底まで見え、店内の灯りが表面を流れて煌めけば、まさにあの宝石の琥珀を連想させます。
こちらが「琥珀」。こんな色の珈琲なのです!
これは焙煎せずに珈琲を抽出しているためで、普通のいわゆるコーヒーとは全くの別物。
香りはほのかにコーヒーを感じさせるものがある自然な甘さ。特有の刺激感はまったくなく、上質で繊細な旨味だけが残ります。
「本物のコーヒーは真っ黒じゃなくて、琥珀色」
というのがマスターの主張。
確かに西田佐知子の唄ったヒット曲『コーヒー・ルンバ』には、
「♪しびれるような香りいっぱいの こはく色した飲み物を教えてあげました♪」
とありますが…正統か異端かの議論はさておき、珈琲が好きな方は一度は飲んでおくべき珈琲であることに間違いありません。
「近頃のドリップケトルは先が真っ直ぐなのばかりで、使いにくくなった。先は曲がってないと」
こんな事を話しながら、マスターは今日も全国からのお客さんを迎えて琥珀色の珈琲を淹れていることでしょう。
2020年の東京オリンピック開催まで、もう僅かです。
PODCASTLIFE-珈琲アロー
~この記事の珈琲店のご案内~
珈琲アロー
熊本県熊本市中央区花畑町10-10
アクセス:熊本市電・花畑町駅 徒歩2分
定休日:不定休
お店のHP:なし